防己尾城は日本最大の池である湖山池西側の小さな半島に築かれました。
其後又此處を捨て防己尾を取立て、三年計り在城しける、此城は山は左のみ高からざれども、本丸二の丸三丸蓬萊三壺の如く峙ち、池の内へ突き出て、東西は湖水なり、南の方三の丸乃方は、陸につゝきたれども、山の岸高く底は谷の如く堀切たり、
因幡民談記 吉岡防己尾城合戰之事より
この城は山は左側だけ高くないが、本丸、二の丸、三の丸は中国の三壺の一つ蓬萊山のように高く聳え、湖山池の内に突き出て、東西は湖水である。
三の丸の方は、陸続きであったが、山の岸は高く底は谷のような堀切である。
訪問しましたが↑のような峻険な感じはなかったです。昔はそうだったのかな?
防己尾城の場所
鳥取市街地から県道21号線を湖山池沿いに走り、松原の信号を斜め右に入ったところにあります。
無料駐車場完備です。
築城者の吉岡将監について
防己尾城は吉岡将監という国人によって築城されました。
織田信長による中国攻め(毛利攻め)で羽柴秀吉が鳥取城攻略する際、防己尾城及び吉岡将監が登場します。
これから引用する因幡民談記、陰徳太平記は一次史料ではありませんので信憑性に欠けますが『ふ~ん。こんな話もあるのか~。』というラフな気持ちでご覧ください。
まず、吉岡将監の人物像について。
高草郡吉岡防己尾には、吉岡將監城主として籠り居けり、此將監と云ひし侍は、昔よりの國人にて、代々此谷の領主たり、太平記に書載せし吉岡安藝守が末葉とかや、其比は年齡五十有余なりける、常に武道の心がけ深く、氣分飽く迄倜儻として人の下風に立ん事を欲せず、勇は盂賁鳥獲が力を物の數とせず、弓馬力戰倫に超へ、智は張良陣平が策を欺く奇正變化の妙、敵を拉ぐ事限りなし、
因幡民談記 吉岡防己尾城合戰之事より
高草郡吉岡の防己尾城には、吉岡将監が城主として籠っていた。この将監という侍は、昔から地元の国人衆として、代々この谷の領主である。太平記に書かれている吉岡安芸守の子孫といわれる。
その頃の年齢は50を少し超えるであった、常に武道の心がけが深く、才能に溢れ人の下に立つことは欲せず、勇は孟賁や鳥獲のように力を物の数とせず、弓馬力戦倫に超え(?)、智は張良や陳平のように策を欺く奇抜な変化が巧みで、敵を挫くこと限りがない。
うまく訳せない場所があってかなり適当な文章になっていますが『防己尾城の吉岡将監はすごいやつだ!』ということです。
文中の孟賁・鳥獲、張良・陳平は中国の武将で前者が武勇を、後者は智略を象徴しています。
鳥取城の攻略に兵糧攻めの採用した羽柴秀吉は補給路を断つため敵方の支城を次々と落城させています。
吉岡将監は毛利方の味方をしたので防己尾城も攻撃の対象になりました。明らかに不利な状況に置かれた吉岡将監ですが…。
その際、なんと!秀吉軍による3回の攻撃を防いだと伝わります。更に秀吉の瓢箪の馬印を奪い取ったという話もあります。
中ニモ吉岡右近ハ。瓢箪ノ馬幟持タル兵ヲ討取ケリ。秀吉ハ味方ノ無益討ルゝヲ見テ。餘リノ口惜サニヤ馬上ニ身ヲ挼デ。湖水ノ汀ヲ上下ヘ蒐廻給ケレ共。其間數町ノ水面ナレバ。衣隔テ掻癢如ク。臨水取月猿ニ似タリ。
陰徳太平記 巻六十四 吉岡城合戰事
秀吉は味方が不用に討たれるのを見て、余りの口惜しさに馬上で身をもんで、湖水のみぎわを上へ下へとかけ廻るけども、その間は数町の水面なので、衣を隔てて掻きむしった(?)。
水に臨んで月を取る猿に似ていた。
山県長茂覚書という古文書にも似たようなことが書かれています。
一 吉岡安藝ハ藝州馳走之仁也、鳥取ヨリ西中間五十三里有之歟、彼城湖ヘ差出、尾頸計地續也、筑前守殿夜中ニ表御出馬、有尾頸之手死(?)、人數被遣、自身ハ城之尾崎際ヘ舟ヲ寄、湖ヘ可被追崩行ニ候處ニ、城内ヨリ尾崎之勢突崩、湖ヘ追付ル歒船踏返シ、數百人死人有之、筑前守殿馬符迄被捨置、危ク御退之事、
石見吉川家文書 山県長茂覚書より
うむ。ちょっと私のスキルでは訳せないな。
『數百人死人有之、筑前守殿馬符迄被捨置、危ク御退之事、』
吉岡に攻められて数百人の戦死者が出て、秀吉は馬印まで捨て置かれ、危うく退散した。というのはわかりました。
さて、鳥取城は飢え殺しと呼ばれる籠城戦の末、落城しています。
吉岡将監はその後どうなったか?
鳥取城落城後の吉岡氏の動向は明らかではないが、十一月には、秀吉方の多賀備中守が吉岡に派遣されていることから、鳥取落城と同時に城を離れ、吉川氏を頼って西に向かったものと思われる。
鳥取県史ブックレット1 織田vs毛利ー鳥取をめぐる攻防ー 因幡吉岡表の戦いより
名が残らなかったのは『毛利氏に重用されなかったのか?』はたまた『何処にも従わなかったのか?』それは誰にもわかりません。
吉岡将監が去った後、防己尾城は廃城になりました。
終わりに
鳥取の小さな城に天下人・豊臣秀吉の攻撃を3度も防いだ挙句、瓢箪の馬印まで奪った凄い武将がいたというお話でした。
おしまい!